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愛好家や作家が評価する国語辞典の9選 ▶

新明解国語辞典の語釈で考える「人生の学び」と「子育て」

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新明解国語辞典 第8版 リーフレット 考える辞書
(新明解国語辞典 第八版 リーフレットより)

新明解国語辞典』の最新 第八版が、2020年11月19日に発売となりました。

『新明解国語辞典』をサンキュータツオさんや石山茂利夫さんといった辞書愛好家が評価する点は、個性的でこってりした独特な語釈です。

私も『新明解国語辞典』に期待することは、思わずうなってしまう、実感ある語釈です。

「こんな言葉が入った!」というような新語の採用は、同じ三省堂の『三省堂国語辞典』や『三省堂現代新国語辞典』の方が得意ですので。

そんな『新明解国語辞典』の最新版のコンセプトは、「考える辞書」です。

そこで『新明解国語辞典』の中から、このブログのテーマの一つである「人生の学び」と「子育て」に関して考えさせられる言葉を、語釈がスマートと評価の高い『岩波国語辞典』と比較して紹介します。

目次
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人生の学び

幸福

新明解国語辞典

現在(に至るまで)の自分の境遇に十分な安らぎや充足感を覚え、あえてそれ以上を望もうとする気持ちをいだくことも無く、現状が継続してほしいと思う(こと/心の状態)。

岩波国語辞典

恵まれた状態にあって、満足に楽しく感じること。しあわせ。

幸福とは『新明解国語辞典』がいうように、「それ以上を望もうとする気持ちをいだくことも無く、現状が継続してほしい」状態なのでしょうか。

この語釈をきっと高く評価するはずなのは、芸術家の故・岡本太郎さんです。

著書の『自分の中に毒を持て<新装版>』にこう書いています。

幸福というのは、自分にとって辛いことや心配なことが何もなくて、ぬくぬくと、安全な状態をいうんだ。
だが、人類全体のことを考えてみてほしい。
たとえ、自分がうまくいって幸福だと思っていても、世の中にはひどい苦労をしている人がいっぱいいる。
(中略)
深く考えたら、人類全体の痛みをちょっとでも感じとる想像力があったら、幸福ということはありえない。
だから、自分は幸福だなんてヤニさがっているのはとてもいやしいことなんだ。

『新明解国語辞典』が教える幸福は、岡本太郎さんの言う芸術家肌の考えに通じます。

新明解国語辞典

個人の立場や利害にとらわれず、広く身のまわりのものすべての存在価値を認め、最大限に尊重していきたいと願う、人間に本来備わっているととらえらえる心情。

岩波国語辞典

そのものの価値を認め、強く引きつけられる気持ち。

2つの辞書ともこのあとに、親子の愛や人類愛など、対象別の愛の説明が続きます。

『新明解国語辞典』によると、愛は「人間に本来備わっている」もの。

哲学事典のような解説です。

私にも本来備わっているはずの愛を、家族やまわりの人たちに示せているか、考えてしまいます。

『岩波国語辞典』の語釈は、仏教で否定的に使う「愛欲」や「愛執」という言葉を意識してのようで、愛の怖さを感じます。

どちらがしっくりくるかは、好みでしょうか。

ウイン ウイン

新明解国語辞典(第八版で新規収録!)

[win-win] お互いの利害が一致し、どちらも得をする関係。ウィン ウィンとも。

岩波国語辞典』 … なし

ウィキペディアによると、win-winを広く世界に知らしめたのは、スティーブン・R・コヴィー博士の『7つの習慣』です。

『7つの習慣』の愛読者として、『新明解国語辞典』での新規収録はうれしいですね。

実社会

新明解国語辞典

実際の社会。[美化・様式化されたものとは違って、複雑で、虚偽と欺瞞に満ち、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す]

岩波国語辞典

美化されたり観念的に考えられたりしたのではない、実際の社会。

「実社会」は、『新明解国語辞典』の第七版の発売時に出版元の三省堂が広告で取り上げた言葉の一つです。

三省堂としても、この辞書の性格を示す代表的な言葉としているのでしょう。

第八版でも語釈は変わらず、2020年以降も実社会は「虚偽と欺瞞」「毎日が試練の連続」です。

サラリーマン

新明解国語辞典

生活を支える主要な収入をサラリーに依存している人。給与生活者。
【運用】「サラリーマン根性」などの形で、定期的な収入を得て安定した生活をすることを第一として 仕事に情熱や意欲を持とうとしない、サラリーマンの陥りがちな人生態度を、非難や皮肉の気持を込めて言うことがある。

岩波国語辞典

給与生活者。月給取り。

『新明解国語辞典』によると、サラリーに「依存している人」です。

第七版と第八版で変更はありませんでした。

仕事に情熱や意欲を持とうとしない」「サラリーマン根性」では、リストラされるか会社が倒産するかで、これからは長く働くことができないでしょう。

氷河期世代

新明解国語辞典(第八版で新規収録!)

ロストジェネレーション(B)

⇒ ロストジェネレーション [Lost Generation=失われた世代]
(A)第一次世界大戦後の虚無と退廃を生きた一群のアメリカの作家たちの呼称。(B)バブル景気崩壊後 [=1990年ごろ] の約十年間に新卒で就職活動を体験した世代。就職難により多くの非正規雇用を生み出すことになった。略してロスジェネ。氷河期世代。

岩波国語辞典』 … なし

「氷河期世代」は「ロストジェネレーション」の(B)を参照ということです。

同じ三省堂の『大辞林』には入っていて、『新明解国語辞典』でも第八版で収録となりました。

いまの景気がよくて、氷河期世代のリストラや非正規雇用が社会問題になっていなければ、『新明解国語辞典』に収録されることはなかったかもしれない言葉でしょう。

介護

新明解国語辞典(第8版で修正!)

第八版

[←介抱看護] 病人・けが人や身体障害者、また高齢者などに医療・看護の支援を行なったり 日常生活の面倒を見たりすること。

第七版

[←介抱看護] 衰弱し切った病人・けが人や重度の身体障害者、また寝たきり老人などに常時 付き切りで、その生活全般の面倒を見ること。

岩波国語辞典

高齢者・病人・障害者など日常生活に支障のある人を助けること。

「介護」は、団塊ジュニア世代(40代後半)の私にとって、これからのしあわせを考える重要な言葉です。

『新明解国語辞典』の「←…」は「…から来た、…の略」の意味で、「介護」は「介抱看護から来た」ということです。

第八版で語釈が変更になり、対象がより幅広くなりました。

また、介護は医療・看護ではなく、医療・看護の補助でもなく、医療・看護の支援とは、医療職・看護職の人にも介護職の人にもきめ細かな配慮を感じる表現です。

子育てに関する言葉

子育て

新明解国語辞典

親としての責任を負って、生まれてから身の回りのことがひとりで出来るくらいになるまで子供の世話をすること。

岩波国語辞典

子供を養い育てること。

『新明解国語辞典』は、「親としての責任を負う」と問います。

なかなか重い言葉です。

親馬鹿

新明解国語辞典

我が子かわいさの余りに、やたらに自慢をしたり 過保護にふるまったりして、他人からは どうかと思われる行動に出ること。

岩波国語辞典

子どもかわいさのあまり、親がおろかなことをしたり、はたからおろかに見えたりすること。そういう親。

両辞書の語釈とも、私には少々しっくりきません。

「親馬鹿と馬鹿な親は違う」
「子供の立場なって考えたり行動するのが親馬鹿で、自分の考えに子供を押さえ込もうとするのが馬鹿な親」

という、吉井妙子著『天才は親が作る (文春文庫)』にある、プロゴルファー丸山茂樹さんの父・護さんの言葉のとおりだと思っていますので。

叱る・怒る

新明解国語辞典

叱る:相手の仕方を、よくないといって、強く注意する。

怒る:1. がまん出来なくて、不快な気持ちが言動に表われた状態になる。2. 目下の者などのやり方が悪いと言って、強い言葉でしかる。

岩波国語辞典

叱る:導き示すように(荒い声で)厳しく言い聞かせる。

怒る:1.(相手をゆるせず)興奮して気を荒だてる。腹をたてる。2. 叱る。

『新明解国語辞典』では、怒るのはがまん出来ないとき

「子供の頃はよく叱りましたよ」「ただ、自分の感情に任せて怒ったこいうことないですね」と、プロ野球選手の松坂大輔さんの母・由美子さんが吉井妙子著『天才は親が作る (文春文庫)』で言っています。

子どもに対して叱ると怒るを分けているか、注意したいところです。

最新第8版のファーストインプレッション

薄く引きやすくなった

『新明解国語辞典』のシンボルカラーは赤だと思いますので、赤版を購入しました。

新明解国語辞典 第8版 第7版

第七版より明るい赤です。

また、第七版の総ページ数1,728に対し、第八版は1,792と64ページ増なのに、薄くなっています(左が八で右が七)。

新明解国語辞典 第8版 第7版 厚さ比較

辞書の仕事 (岩波新書)』(増井元)によると、辞書業界では店頭での見栄えを上げるために厚くすることもあるそうです。

そこを、『新明解国語辞典』も、『三省堂国語辞典』も、『三省堂現代新国語辞典』も、『大辞林』も、『グランドセンチュリー英和辞典』も、『ウィズダム英和辞典』も、薄くコンバクトにつくってくれる三省堂さんの良心が好きです。

表紙の素材も第八版より柔らかく手になじみ、引きやすくなりました。

紙面が読みやすくなった

新明解国語辞典 第8版 リーフレット 読みやすさ
新明解国語辞典 第8版 リーフレットより

どこがどう変わったかはうまく表現できないのですが、実物を確認すると確かに第七版より読みやすくなっています。

老眼が入ってきた目にうれしいところです。

新明解国語辞典に末永く期待すること

『新明解国語辞典』の第八版の語釈からの学びとファーストインプレッションは、以上です。

『新明解国語辞典』は第四版の第4四刷まで、「マンション」をこう書いていました。

スラムの感じが比較的少ないように作った、鉄筋のアパート式高層住宅。

いい悪いは別としてもこんな語釈は、炎上の恐れがあるいまの時代では難しいのでしょう。

※炎上=[ブログなどで] その内容について大量の批判が書き込まれる状態になること。(『新明解国語辞典 第八版』新規収録!

それでも『新明解国語辞典』には、思わずハッとしてしまうような、実感のこもった語釈や用例をずっと発信していただくことを、末永く期待します。

>>>小型版もあります。

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