さまざまな国語辞典の中で、愛好家や作家などその道のスペシャリストが評価や愛用している辞書から、社会人・大学生などの大人向けでおすすめはどれなのか。
大人から小学生までの主要な国語辞典23種*1を買って実物をチェックし、愛好家や作家が発信している情報を調べて、この8種を選びました。
「例解新国語辞典」は中学生用ですが、大人向けとしても使える実力と見逃せない特長があり、候補に入れています。
本記事では、この8種を選ぶ理由となった愛好家や作家の評価と愛用する辞書の情報をまとめます。
この記事では、主に社会人と大学生を対象に国語辞典を選んでいます。
高校生や中学生が使う国語辞典には、「夏目漱石」や「清少納言」などの文学史に出てくる固有名詞がある方がいいと考えます。
今回選んだ岩波国語辞典、新明解国語辞典、三省堂国語辞典、明鏡国語辞典には、このような固有名詞がありません。
高校生・中学生・小学生向けの国語辞典は、以下の別の記事でおすすめを選んでいます。
一般的に国語辞典は、『新明解国語辞典』程度の大きさの「小型」、『広辞苑』程度の大きさの「中型」、全13巻ある『日本国語大辞典』の「大型」、の3つに分類されています。
今回の8選では『大辞林』のみが「中型」で、他は「小型」の国語辞典です。
愛好家や作家の評価と愛用辞書
サンキュータツオ
- 1冊目に引く辞書は『集英社国語辞典 横組版』
- ほか『岩波国語辞典』を愛用
- 2冊持ちの組み合わせのおすすめは『岩波国語辞典』+『新明解国語辞典』
(『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』[2013年3月単行本発行]より)
(ブログ サンキュータツオ教授の優雅な生活 より)
サンキュータツオさんは芸人でありながら、文学修士で大学講師も務める辞書のコレクターです。
この本で、各小型国語辞典の個性を男性キャラクターに例えて、おもしろおかしく、かつわかりやすく説明してくれています。
タツオさんの主張は、「大人なら国語辞典は二冊持て!」
おすすめのオーソドックスな組み合わせは、スタンダードさが売りの『岩波国語辞典』+個性的な語釈の『新明解国語辞典』です。
タツオさんのいう岩波国語辞典の特長は、十を表現する「一」の語釈を追求するスマートさ。
新明解国語辞典の特長は、語のニュアンスまで含めた情報量の多さです。
そんなタツオさん自身が一番先に引く辞書は、『集英社国語辞典 横組版』です。
落ち着きと情報量のバランスで総合力ナンバーワンで、さらに横組で読みやすいと。
最新の第3版で横組がなくなったことを嘆いています。
またブログの サンキュータツオ教授の優雅な生活 で、『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』を、「国語辞典のビック4」と書いています。
石山茂利夫
- 日常使用は 『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』 『大辞林』『日本国語大辞典』の7種
- 『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』を自宅と会社の机上に置く
この2種で疑問が解けないときに、他の小型、中型(大辞林)、大型(日本国語大辞典)の順で見る - 最初は『岩波国語辞典』
説明内容がムダのない案内図のようにすっきりしているから - 『新明解国語辞典』は意味説明のくどさが、『岩波国語辞典』のすっきりさのともなう欠落を補う
- 『三省堂国語辞典』は、現代語の取材で必見の辞書を聞くと複数の国語学者がみなこの辞書をあげた
言葉の新しい用法や新語の登載が抜群に早い - 『新潮現代国語辞典』は出典付き用例と漢字表記の豊富さで中型の風格
- 『大辞林』は『広辞苑』より現代語への目配りが行き届いている
(『裏読み深読み国語辞書』[2001年2月単行本発行]より)
石山さんは元新聞記者で、国語辞典に関する本をいくつか書いています。
中でも『裏読み深読み国語辞書』の「あとがきに代えて」で、編集者の「どの辞書がいいのか」という疑問に、上の内容を答えてくれています。
中でも『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』を自宅と会社の机上に置くそうなので、この2冊の組み合わせがメインなのでしょう。
辞書の選び方や使い方について、とても参考になる内容です。
井上ひさし
- 『角川必携国語辞典』を愛用
(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』[1998年6月単行本発行]より)
- その前は『岩波国語辞典』を愛用
(『本の枕草紙 (文春文庫)』[1992年1月単行本発行]より)
作家の井上ひさしさんは大野晋さんを日本の国文法学者の第一人者と考えていて、その大野さんが長年かけて作った辞書として『角川必携国語辞典』を推しています。
「書く立場に立ったとき、どう言葉を使い分けるか、とくに『語感』がよく書かれている」と評しています。
『角川必携国語辞典』の発売前は、著書の『本の枕草紙 (文春文庫)』の中で『岩波国語辞典』を、平易でよくわかり、歴史的遠近法を用い、日本語の造語法にも注意を促す「『立て付け』のよい解説」と評価しています。
さらにその前は、著書『巷談辞典 (河出文庫)』の中で、仕事をする机上には『岩波国語辞典』『新潮国語辞典』『岩波古語辞典』『新明解国語辞典』『分類語彙表』が載っている、と書いています。
木下是雄
(『レポートの組み立て方』[1990年2月単行本発行]より)
木下是雄さんは、文章術本の超ロングセラー『理科系の作文技術』の著者です。
『レポートの組み立て方』と『理科系の作文技術』のどちらにも、「チラとでも疑問を感じたら即座に辞書をひらく習慣をつけるべき」と書いています。
そんな木下さんがいちばんよく使う2つの辞書が、『学研国語大辞典』と『例解新国語辞典』です。
『学研国語大辞典』は、「ことばの意味を、単なる言いかえによって示すのではなく、内容的にちゃんと説明しようと努力している」「用例が多い」と評価しています。
柳瀬尚紀
柳瀬尚紀さんはジェームス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳で有名です。
『新潮現代国語辞典』は、用例がすべて文学作品の実例なので、「『著名な言語作品から実用例を求め』るという編集方針が徹底していて、文学的に、というか、『言語作品』的に、面白く読めるから」愛用しているそうです。
また『角川必携国語辞典』を、固有名詞の選択が全般的にうまくいっている、四文字漢語、使い分け、古語の説明などの点で評価しています。
橋本治
- 特に辞書の引き比べはせず『大辞林』のみを使う
- 編者が「江戸語・東京語の権威」の松村明先生だから
(『橋本治が大辞林を使う』[2001年10月単行本発行]より)
作家の橋本治さんは、辞書は自分の使いやすい辞書が一冊あればいい、「使いやすい辞書」なら長い間使っていられて「自分に必要な辞書」となる、他の辞書を使ったら混乱するだけ、と言い、『大辞林』を愛用します。
奥が深い言葉です。
鈴木喬雄
鈴木喬雄さんは一社会人の立場から、著書の『診断・国語辞典』の中で
「辞書はことばの書である。同時に、辞書は人間の書である」
「辞書には3つの機能がある。第一は、字引として役立つこと。第二は、文章の読解に役立つこと。第三は、文章を書くのに役立つこと」
など、鋭い論考を連発してくれます。
そんな鈴木さんが本の中で評価している辞書は、『三省堂国語辞典』『岩波国語辞典』『例解新国語辞典』です。

ながさわさん
ながさわさんは辞書のコレクターで、四次元ことばブログにて辞書の情報を発信しています。
こちらのブログにある 国語辞書の購入の手引き 市販15種徹底比較【1種追加】の記事での、独断と偏見によるおすすめ度5段階評価で最高ランクの五つ星は、『集英社国語辞典』と『小学館日本語新辞典』です。
また近著の『比べて愉しい国語辞典』にて、『明鏡国語辞典』の改訂3版を「誤用に注意をうながし(中略)、随所に読者への親切心が行き渡った秀逸な辞書」と評価しています。
明鏡国語辞典は今回の改訂で「品格」欄を新設するなど類語の情報も豊富になり、「語彙力強化」のための実力がさらに高まった印象です。
明鏡国語辞典の初版の刊行は2002年のため、これ以前の辞書関連の本には出ておらず、井上ひさしさんや鈴木喬雄さんの評価が聞けないのが残念です。
以上になります。
中型国語辞典の代表格である『広辞苑』は、ここでは人気がありません。
サンキュータツオさんは『広辞苑』を「国語辞典的百科事典」と評しています。
国語辞典のおすすめ8選と特長のまとめ
以上の情報から2022年現在、大人向けの国語辞典選びで外せないおすすめ辞書8選とその特長は次の通りです。
岩波国語辞典
新明解国語辞典
三省堂国語辞典
明鏡国語辞典
集英社国語辞典
角川必携国語辞典
例解新国語辞典
大辞林
その他の国語辞典について
『新潮現代国語辞典』『小学館日本語新辞典』『学研国語大辞典』は、2020年現在入手しにくいので残念ながら外しています。
それぞれ代えがたい特長がありますので、内容に惹かれる方は中古での入手をご検討ください。
また『日本国語大辞典』は全13巻+別冊1巻の大型辞典なので、「おすすめ」の国語辞典からは外しました。
私は読みたいときは図書館に行っています。
私の愛用は角川必携国語辞典
さて私は、まずは井上ひさしさんに習い『角川必携国語辞典』を愛用しています。
他を一通り検討後に紆余曲折を経て、またこの国語辞典に戻ってきています。

他によく引いているのは、『現代国語例解辞典』『岩波国語辞典』『三省堂国語辞典』『例解新国語辞典』と、物書堂のアプリ版の『明鏡国語辞典』と『新明解国語辞典』です。
紹介記事はこちらです。

以上、愛好家と作家の評価や愛用辞書から、社会人や大学生向けおすすめ国語辞典8選の情報でした。
*1:小型国語辞典21種(岩波、新明解、三省堂、明鏡、旺文社、集英社、新選、新潮現代、現代国語例解、角川必携、三省堂現代新、学研現代新、ベネッセ表現読解、例解新、ベネッセ標準、旺文社標準、学研現代標準、新レインボー小学、例解学習、例解小学、チャレンジ小学)、中型国語辞典2種(広辞苑、大辞林)
(2021.12.19 三省堂国語辞典を第8版に更新)
(2021.7.5 明鏡国語辞典第3版を追加)
(2021.1.19 例解新国語辞典を第10版に更新)
(2020.10.10 公開)




