一般向けから小学生向けまでの主要な国語辞典23種*1を買って実物をチェックし、愛好家や作家の方々が発信している情報を調べ、この9種を選びました。
『例解新国語辞典』は中学生向けですが、大人も使える実力があるため候補に入れています。
本記事では、この9種を選ぶ理由となった愛好家や作家の評価と愛用する辞書の情報をまとめます。
ここでは主に社会人と大学生を対象に国語辞典を選んでいます。
高校生や中学生が使う国語辞典には、「夏目漱石」や「清少納言」などの文学史に出てくる固有名詞がある方がいいと考えます。
今回選んだ岩波国語辞典、新明解国語辞典、三省堂国語辞典、明鏡国語辞典、現代国語例解辞典には、このような固有名詞がありません。
高校生・中学生・小学生向けの国語辞典は、以下の別の記事でおすすめを選んでいます。
一般的に国語辞典は、『新明解国語辞典』程度の大きさの「小型」、『広辞苑』程度の大きさの「中型」、全13巻ある『日本国語大辞典』の「大型」、の3つに分類されています。
今回の9選では『大辞林』のみが「中型」で、他は「小型」の国語辞典です。
愛好家や作家の評価と愛用の国語辞典
サンキュータツオ
- 1冊目に引く辞書は『集英社国語辞典 横組版』
- 『岩波国語辞典』も愛用
- 2冊持ちの組み合わせのおすすめは『岩波国語辞典』+『新明解国語辞典』
(『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』[2013年3月単行本発行]より)
(『国語辞典を食べ歩く』[2021年7月発行]より)
サンキュータツオさんは芸人でありながら日本語学の大学講師も務める辞書のコレクターです。
著書の『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』の本で、各小型国語辞典の個性を男性キャラクターに例えて、おもしろおかしくかつわかりやすく説明してくれています。
タツオさんの主張は、「大人なら国語辞典は二冊持て!」
タツオさんのいう岩波国語辞典の特長は、十を表現する「一」の語釈を追求するスマートさ。
新明解国語辞典の特長は、語のニュアンスまで汲み取った情報量の多さです。
そんなタツオさんこの本で紹介するご自身が一番先に引く辞書は、『集英社国語辞典 横組版』です。
落ち着きと情報量のバランスで総合力ナンバーワンで、さらに横組で読みやすいと。
最新の第3版で横組がなくなったことを嘆いています。
また2021年7月に出た『国語辞典を食べ歩く』では、『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』を「国語辞典のビッグ4」と呼んでいます。
石山茂利夫
- 日常使用は 『岩波国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』 『大辞林』『日本国語大辞典』の7種
- 『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』を自宅と会社の机上に置く
- この2種で疑問が解けないときに、他の小型、中型(大辞林)、大型(日本国語大辞典)の順で見る
- 最初は『岩波国語辞典』 -説明内容がムダのない案内図のようにすっきりしている
- 『新明解国語辞典』-意味説明のくどさが『岩波国語辞典』のすっきりさのともなう欠落を補う
- 『三省堂国語辞典』-現代語の取材で必見の辞書を聞くと複数の国語学者がみなこの辞書をあげていて、言葉の新しい用法や新語の登載が抜群に早い
- 『新潮現代国語辞典』-出典付き用例と漢字表記の豊富さで中型の風格
- 『大辞林』-『広辞苑』より現代語への目配りが行き届いている
(『裏読み深読み国語辞書』[2001年2月単行本発行]より)
石山茂利夫さんは元新聞記者で、国語辞典に関する本をいくつか書いています。
中でも『裏読み深読み国語辞書』の「あとがきに代えて」で、編集者の「どの辞書がいいのか」という疑問に、上の内容を答えてくれています。
国語辞典の選び方や使い方について、とても参考になる内容です。
高橋聡
- 『大辞林』『岩波国語辞典』『明鏡国語辞典』『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『現代国語例解辞典』『例解新国語辞典』 を訳語を選ぶ拠り所として日常的に使う
- 『大辞林』-収録語彙、語義の詳しさ、語法の量など総合的なバランスで『広辞苑』より翻訳者向け
- 『岩波国語辞典』-どの語釈にも安定感がある
- 『明鏡国語辞典』-誤用にうるさい
- 『三省堂国語辞典』-どこまでの範囲ならゆるい使い方が許されるかといった指針になる
- 『新明解国語辞典』-言葉の使い方がしっかり示されている
- 『現代国語例解辞典』-類語の使い分けがよく分かる
- 『例解新国語辞典』-言葉の微妙なニュアンスや使い分けがとてもわかりやすく説明されている
(『翻訳者のための超時短パソコンスキル大全』[2023年3月発行]より)
翻訳者の高橋聡さんは禿頭帽子屋さんとして、以前からブログ「禿頭帽子屋の独語妄言 side α」で辞書について様々な情報を発信してくれています。
そんな高橋さんが近著『翻訳者のための超時短パソコンスキル大全』の中で、訳語を選ぶ拠り所として日常的に使うと紹介しているのが、上の7種の国語辞典です。
その他には『大辞泉』も、オンライン版の更新が早いので「最近の言葉の傾向を知るために使って」いるそうです。
ながさわさん
- 運営ブログで『集英社国語辞典』と『小学館日本語新辞典』を五つ星に
- 著書の『比べて愉しい国語辞典』で『明鏡国語辞典』を秀逸な辞書と評価
ながさわさんは辞書のコレクターで、四次元ことばブログにて辞書の情報を発信しています。
また近著の『比べて愉しい国語辞典』[2021年4月発行]で、『明鏡国語辞典』の改訂3版を「誤用に注意をうながし(中略)、随所に読者への親切心が行き渡った秀逸な辞書」と評価しています。
明鏡国語辞典は2020年の改訂で「品格」欄を新設するなど類語の情報も豊富になり、「語彙力強化」のための実力がさらに高まった印象です。
明鏡国語辞典の初版の刊行は2002年のため、これ以前の辞書関連の本には出ておらず、このあとに出てくる井上ひさしさんや鈴木喬雄さんの評価が聞けないのが残念です。
井上ひさし
- 『角川必携国語辞典』を愛用
(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』[1998年6月単行本発行]より)
- その前は『岩波国語辞典』を愛用
(『本の枕草紙 (文春文庫)』[1992年1月単行本発行]より)
「書く立場に立ったとき、どう言葉を使い分けるか、とくに『語感』がよく書かれている」と評しています。
『角川必携国語辞典』の発売前は、著書の『本の枕草紙 (文春文庫)』の中で『岩波国語辞典』を、平易でよくわかり、歴史的遠近法を用い、日本語の造語法にも注意を促す「『立て付け』のよい解説」と評価しています。
さらにその前は、著書『巷談辞典 (河出文庫)』の中で、仕事をする机上には『岩波国語辞典』『新潮国語辞典』『岩波古語辞典』『新明解国語辞典』『分類語彙表』が載っている、と書いています。
木下是雄
(『レポートの組み立て方』[1990年2月単行本発行]より)
木下是雄さんは、文章術本の超ロングセラー『理科系の作文技術』の著者です。
著書の『理科系の作文技術』と『レポートの組み立て方』のどちらにも、「チラとでも疑問を感じたら即座に辞書をひらく習慣をつけるべき」と書いています。
『学研国語大辞典』は、「ことばの意味を、単なる言いかえによって示すのではなく、内容的にちゃんと説明しようと努力している」「用例が多い」と評価しています。
また『例解新国語辞典』は「中学生用の辞典で、ものを書くときはその意味で参考になる」としています。
柳瀬尚紀
柳瀬尚紀さんは英文学者で、ジェームス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳者としても有名です。
用例がすべて文学作品の実例なので、「『著名な言語作品から実用例を求め』るという編集方針が徹底していて、文学的に、というか、『言語作品』的に、面白く読めるから」とのこと。
また『角川必携国語辞典』を、固有名詞の選択が全般的にうまくいっている、四文字漢語がたくさん載せられている、使い分けや古語の説明などの点で評価しています。
橋本治
- 特に辞書の引き比べはせず『大辞林』のみを使う
(『橋本治が大辞林を使う』[2001年10月単行本発行]より)
理由は編者が「江戸語・東京語の権威」の松村明先生であり、「使える言葉」を使いやすいようにストックしてくれているから、です。
また、辞書は自分の使いやすい辞書が一冊あればいい、「使いやすい辞書」なら長い間使っていられて「自分に必要な辞書」となる、他の辞書を使ったら混乱するだけ、と言います。
奥が深い言葉です。
鈴木喬雄
鈴木喬雄さんは『診断・国語辞典』の著者で、この本の中で一社会人の立場から
「辞書はことばの書である。同時に、辞書は人間の書である」
「辞書には3つの機能がある。第一は、字引として役立つこと。第二は、文章の読解に役立つこと。第三は、文章を書くのに役立つこと」
など、鋭い論考を連発してくれます。
特に『例解新国語辞典』は初版の発売時に他の国語辞典と語釈を比較し、「説明は平易であるが水準は高い」と評しています。
以上になります。
中型国語辞典の代表格である『広辞苑』は、ここでは人気がありません。
サンキュータツオさんは『広辞苑』を「国語辞典的百科事典」と評していて、広辞苑の魅力はまた違った点にあるようです。
国語辞典のおすすめ9選と特長のまとめ
以上の情報から2023年現在、大人向けの国語辞典のおすすめ9選とその特長をまとめます。
岩波国語辞典
新明解国語辞典
三省堂国語辞典
明鏡国語辞典
集英社国語辞典
現代国語例解辞典
角川必携国語辞典
例解新国語辞典
大辞林
その他の国語辞典について
『新潮現代国語辞典』『小学館日本語新辞典』『学研国語大辞典』は、2023年現在入手しにくいので残念ながら外しています。
それぞれ代えがたい特長がありますので、惹かれる方は中古での入手をご検討ください。
また『日本国語大辞典』は全13巻+別冊1巻の大型辞典なので、「おすすめ」の国語辞典からは外しました。
私は読みたいときは図書館に行っています。
私の愛用は角川必携国語辞典
いろいろ試した紆余曲折を経て、またこの国語辞典に戻ってきています。
他によく引いているのは物書堂のアプリ版の『岩波国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』と、紙の『現代国語例解辞典』『例解新国語辞典』です。
紹介記事はこちらです。
以上、愛好家と作家の方々の評価や愛用辞書から、社会人や大学生向けおすすめ国語辞典9選の情報でした。
*1:小型国語辞典21種(岩波、新明解、三省堂、明鏡、旺文社、集英社、新選、新潮現代、現代国語例解、角川必携、三省堂現代新、学研現代新、ベネッセ表現読解、例解新、ベネッセ標準、旺文社標準、学研現代標準、新レインボー小学、例解学習、例解小学、チャレンジ小学)、中型国語辞典2種(広辞苑、大辞林)
(2023.6.29 高橋聡さんの評価などを加筆、おすすめを9種に変更)
(2021.12.19 三省堂国語辞典を第8版に更新)
(2021.7.5 明鏡国語辞典第3版を追加)
(2021.1.19 例解新国語辞典を第10版に更新)
(2020.10.10 公開)