多様な国語辞典の中から、中学生向け国語辞典のおすすめを選びます。
目先の国語の成績がどうこうではなく、長い人生で役立つ知識や読解力・表現力を学べるのはどれなのか。
親が子どもに使ってほしい国語辞典という視点で考えます。
候補は、教科書を調査するなどして最新の中学校の学習指導要綱に対応した国語辞典です。
結論としてその中から2025年現在、おすすめはこの2種です。
- 例解新国語辞典 第十一版(三省堂)
- 旺文社標準国語辞典 第八版(旺文社)
市販の中学生向け国語辞典には他に、『学研現代標準国語辞典 改訂第4版』と『ベネッセ新修国語辞典 第二版』があります。
このうち『学研現代標準国語辞典』は、文学史に登場する人名や作品名がないので当ブログの考えでは選外です。
辞書を引いてふと目にした人や作品に興味を持つ機会が少しでも多い方が、中学生にはいいと思いますので。
また『ベネッセ新修国語辞典』は、2012年から改訂がないため選外とします。
それでは以下から、中学生向け国語辞典のおすすめ2選、『例解新国語辞典』と『旺文社標準国語辞典』の特徴を紹介します。
それぞれ独特な特徴のある魅力的な国語辞典ですが、わが家がどちらかを選ぶなら、オールカラーで情報量が豊富な『例解新国語辞典』です。



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『例解新国語辞典』の特徴

- 出版社:三省堂
- 定価:3,080円(税込)
- 初版:1984年
- 最新版:2025年1月
- 前の版:2021年2月
- 収録語数:約60,000
- 総ページ数:1,536
- 厚さ:46mm
- 重さ:879g
- 囲み記事・コラム:ことばの知識、ことばの使い方、ことばの使いわけ など
- 欄外情報:世界の国名、日本と世界の歴史上の重要人物
- 巻末付録:特集「語彙のひろがり ことばの世界」、常用漢字の字体について、品詞の分類、活用表(口語・文語)、敬語の分類と使いかた、囲み記事 目次、誤解されやすいことば・新しい使いかた、(一覧)、同じ表記で違った読み方をする別のことば(一覧)、欧文略語集
- デジタル版:購入者特典でオンライン辞書が利用可
- その他:通常版とデザイン違いのとくべつデザイン版あり

本文中のイラストや囲み記事がカラフルになって、前の版と比べると確かに、ページをめくる楽しさが倍増しています。
古語の収録で、ライバルの『旺文社標準国語辞典』に負けていた点の一つがなくなりました。
これによりスマホ・タブレット・パソコンのどれでも利用が可能になります。
それでいて、一語一語の解説や囲み記事のコラムの情報の豊富さは、これまでと変わっていません。
囲み記事のコラムでは、「人は、心の中にも道をつくる」や「相手に配慮しながらことばを選んで使うように心がける気持ち」など、日本語の奥深さを学べる内容が満載です。

コラムの中で、「…ごとに」と「…おきに」の違いについてほぼ1ページを使っての解説があり、特に驚きました。

「誤解されやすいことば・新しい言い方」の解説も詳しく、一覧が索引巻末の見返しページにあります。
「一姫二太郎」「性癖」「他力本願」「情けは人の為ならず」「役不足」「唯我独尊」「令嬢」など、すべて大人が読んでもおもしろいです!

特に、「拙速」を否定的に使うことへの注意付きの解説は、中型の国語辞典にもない実力でした。

また、同音でアクセントが異なる語に、アクセントの強調表記があります。
例:【寒天】カンテン 【観点】カンテン
これも他の中学生向け国語辞典にない特長です。
注意点としては、文学史や歴史上の人物名は本文中でなく欄外にあるこことと、「万葉集」「枕草子」「坊っちゃん」といった作品名は収録されていないことです。
『旺文社標準国語辞典』の特徴

- 出版社:旺文社
- 定価:2,970円(税込)
- 初版:1965年
- 最新版:2020年12月
- 前の版:2011年11月
- 収録語数:約50,000
- 総ページ数:1,312
- 厚さ:40mm
- 重さ:766g
- 囲み記事・コラム:使い分け、比較、慣用表現、表現、仕組みの解明、ことばの移り変わり
- 欄外情報:なし
- 巻末付録:国語表記の基準、国文法の解説(品詞、活用)、敬語の使い方、漢字の筆順、常用漢字表「付表」、索引(使い分け、比較、表現、仕組みの解明、ことばの移り変わり、冒頭文、参考図表、和歌・短歌、俳句、故事・ことわざ、漢字画引き)、アルファベット略語集、テーマ別 類語表現コンシェルジュ
- デジタル版:購入者特典でアプリ版が利用可
- その他:別冊付録「あの人この言葉」付き、デザイン違いの「特装版」あり

こちらの紙面は、一般社会人向けの辞書と同じ2色刷りになっています。
さらに「古事記」「枕草子」「源氏物語」「徒然草」「学問のすすめ」「坊っちゃん」「草枕」「羅生門」「論語」など、有名な25の文学作品にはなんと冒頭文があります。
「学問のすすめ」
天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云いへり。されば天より人を生ずるには、万人皆同じ位にして、生まれながら貴賤きせん上下の差別なく…
「古事記」
天地あめつち初めて発ひらけし時、高天たかまの原に成れる神の名は、天之御中主あめのみなかぬし神。次に高御産巣日たかみむすひ神。次に神産巣日かみむすひ神。此の三柱みはしらの神は、並みな独神ひとりかみと成り坐まして、身を隠かくしたまひき。
「草枕」
山路を登りながら、こう考えた。智ちに働けば角かどが立つ。情に棹さおさせば流される。意地を通せば窮屈きゅうくつだ。とかく人の世は住みにくい。
まさか、「古事記」の冒頭文を国語辞典で読めるとは!
これら文学作品の冒頭文は一般向けの国語辞典を含めて、『旺文社標準国語辞典』にしか見たことがありません。
この辞書で名文に触れ、一つでも興味を持って読んでくれたら、本好きの親としてはうれしい限りです。
その他の注目は、「あの人のこの言葉」という別冊の付録です。

各界の著名人31名がそれぞれ4~7つの言葉を選び、独自の視点で書いた特別語釈を収録しています。
一例はこちら。
松任谷由実(シンガーソングライター)
「ブーム」
最高潮。目の前で波がクラッシュし始めるピークの地点。そこにいる者を引きずり落とそうとする力学のはたらく場所。
多感な中学生だからこそ、心に響く言葉がきっとあることでしょう。
この付録の感想は、別の記事に書いています。

また、購入者特典で無料で使えるアプリ版があり、iPhone・iPadでもAndroidでもスマホやタブレットでデータをダウンロードして使うことができます。

収録項目の比較
国語と社会の分野の言葉や、最近の俗語の収録を比較します。
作家名・作品名
例解新 | 旺文社標準 | |
---|---|---|
紫式部 | ◯ | ◯ |
源氏物語 | ✕ | ◯ |
芥川龍之介 | ◯ | ◯ |
羅生門 | ✕ | ◯ |
シェークスピア | ◯ | ◯ |
ハムレット | ✕ | ◯ |
ドストエフスキー | ◯ | ◯ |
罪と罰 | ✕ | ◯ |
違いは『旺文社標準国語辞典』には作家名だけでなく作品名もあることで、特に「源氏物語」「羅生門」など25作品は冒頭文も収録されています。
歴史・社会
例解新 | 旺文社標準 | |
---|---|---|
徳川家康 | ◯ | ✕ |
関ケ原の戦い | ◯ | ✕ |
フランス革命 | ◯ | ◯ |
第二次世界大戦 | ◯ | ◯ |
石油危機 | ◯ | ✕ |
湾岸戦争 | ◯ | ✕ |
9.11(アメリカ同時多発テロ) | ◯ | ✕ |
歴史や社会の項目は『例解新国語辞典』の方が多く収録しています。
これは少し意外でした。
最近の言葉・俗語
新語の収録に積極的な『三省堂現代新国語辞典』(2023年12月発売)にある言葉を引いてみます。
例解新 | 旺文社標準 | |
---|---|---|
SDGs | ◯ | ◯ |
サイコパス | ◯ | ✕ |
生成AI | ✕ | ✕ |
Z世代 | ◯ | ✕ |
エモい | ✕ | ✕ |
草(笑いの意) | ✕ | ✕ |
ドン引き | ◯ | ✕ |
バズる | ◯ | ✕ |
ぴえん | ✕ | ✕ |
リア充 | ✕ | ✕ |
ワンチャン | ◯ | ✕ |
同じ三省堂でも、『例解新国語辞典』は『三省堂現代新国語辞典』ほどは新語の収録に積極的でないことがわかります。
『旺文社標準国語辞典』は、新語や俗語にさらに保守的です。
語釈の比較
いくつか語釈を比較します。
悟性
息子が高校入試の過去問を解いていて、「悟性」という言葉の意味が分からずつまづいたことがあります。
例解新国語辞典
知識や経験をもとに、ものごとを論理的に判断する心のはたらき。[類]理性
旺文社標準国語辞典
物事を判断し理解する能力。「―が働く」
学研現代標準国語辞典(参考)
物事を論理的に考えて判断する能力。[用法]文章語的
ベネッセ新修国語辞典(参考)
人間の、判断して考える能力。[類]理性
概念
抽象的な言葉の代表として、「概念」を引いてみます。
例解新国語辞典
1. 一匹一匹のイヌからその共通した特徴をとりだして、「イヌ」とはどういう動物か、と考えるような、一つの類として頭にえがく考え。[例] 概念をはっきりさせる。美の概念。概念規定。概念形成。類概念。上位概念。2. 年寄りといえば「がんこもの」、若者といえば「未熟もの」と決めてかかるような固定した考え。[例] 既成の概念。水はおそろしいという概念をうえつけられてしまうと、水泳がおぼえられない。固定概念。[類] 先入観。3. 何かについて、頭の中だけでつくりあげている考え。[例] 概念の遊び。実物を見ないで、概念でえがいた絵だ。概念図。[類] 観念。
旺文社標準国語辞典
1. 同類のものの中から共通した特徴をぬきだし、まとめてできた感じや考え。たとえば、秋田犬・コリーなど、いろいろの犬の共通点を通して、「犬」というものの概念が得られる。「―規定」2. ある物事について思い浮かべる感じや考え。「既成―」3. 物事についての大まかな理解。「北アルプスの―図」[…的]「―的な物の見方」
学研現代標準国語辞典(参考)
1.多くの似たものの中から取り出される、それらに共通した性質・考え。たとえば、「かたい」という概念は、石や鉄などいろいろなものにさわって得られる。[例]美の概念。2.おおよその内容。[例]宇宙についての概念。
ベネッセ新修国語辞典(参考)
1. あるものごとについて、一つ一つの具体的な事がらの中から、共通の性質をぬき出してまとめ上げた考え。2. 有るものごとに対する固定した考え。また、だいたいの意味や内容。「教師は聖職であるという―がある」
介護
当ブログが国語辞典のチェック項目の一つにしている、「介護」を引いて「看護」との違いがわかるかどうかを確認します。
例解新国語辞典
病人や障害者、高齢者などの日常生活の世話をすること。
旺文社標準国語辞典
病人やからだの不自由な人、あるいは高齢の人の看護や世話をすること。
学研現代標準国語辞典(参考)
病人や老人につきそって、世話をすること。[例]介護福祉士。[類]介助。看護。
ベネッセ新修国語辞典(参考)
病人や体の不自由な人、老人などに付き添って、身の回りの世話をすること。「けが人を―する」「―保険」

不登校
中学生が気になりそうな言葉も引いてみました。
例解新国語辞典
児童や生徒が、病気などのやむを得ない事情以外の何らかの理由で、学校になじめず、行けないこと。[参考]「登校拒否」にかえて広い意味で用いられるようになった語。
旺文社標準国語辞典
主として心理的な理由から、児童・生徒が登校しないこと。登校拒否。
学研現代標準国語辞典(参考)
児童や生徒が心理的な原因などで、長い時間登校しないこと。
ベネッセ新修国語辞典(参考)
※収録なし
誤解されやすいことばの説明を比較
「さわり【触り】」は、本来は「話などの要点のこと」の意味ですが、文化庁の国語に関する世論調査によると半数以上が「話などの最初の部分のこと」という意味で使っているそうです(『文化庁国語課の勘違いしやすい日本語』より)。
各国語辞典の説明を見てみます。
例解新国語辞典
1. 話や物語、曲の中の、いちばんいいところ。[例]触りだけを話す。[類]さび。2. 話や物語、曲の、はじまりの部分。[類]出だし。[注意]1. が本来の意味だが、2. の意味で使うことも増えた。
旺文社標準国語辞典
1. ふれたときの感じ。「―ぐあい」 2. 義太夫で、一曲中のいちばんの聞かせ所。 3. 話や音楽で、いちばんの聞かせ所。「話の―を聞きもらす」 4.《俗語》話や音楽で、はじまりの部分。
学研現代標準国語辞典(参考)
1. 話や小説の、たいじなところ。[例]小説の触りを読む。 2. 浄瑠璃などの、いちばんいいところ。[例]触りを聞かせる。
ベネッセ新修国語辞典(参考)
1. さわった感じ。「―心地」 2. 浄瑠璃で、主人公の気持ちを述べる聞かせどころ。さわり文句。 3. 話の肝心な所。「小説の―の部分だけ読む」
赤字は私がつけました。
『旺文社標準国語辞典』は《俗語》とあるだけで、『学研現代標準国語辞典』と『ベネッセ新修国語辞典』は「話などの最初の部分のこと」の使い方についての説明がありません。

『例解新国語辞典』と『旺文社標準国語辞典』はどんな人におすすめ?
比較した結果から、それぞれをおすすめする人をまとめてみました。
- オールカラーの紙面に魅力を感じる
- 一語一語の説明や用例を多く読んで学びたい
- 間違いやすいことばや新しい言い方を詳しく知りたい
- アクセントも知りたい
- スマホやタブレットだけでなくWindowsのパソコンでも使いたい
- 落ち着いた紙面に魅力を感じる
- 人名・地名・作品名など固有名詞も本文中にほしい
- 和歌・俳句が好き
- 文学作品の冒頭文があることに引かれる
- 別冊付録の「あの人のこの言葉」を読みたい
- スマホやタブレットでも使えれば十分
それぞれに独特の個性があり、単純に優劣をつけるのは難しいところです。
参考までに、わが家が選ぶとすれば『例解新国語辞典』です。
一語一語の情報量の豊富さ、用例の充実、日本語の奥深さを学べるコラム、誤解されやすいことばや新しい言い方の解説や、社会科の言葉まで収録していることが魅力です。
さらに最新版でオールカラーになり、ページを開く楽しさがUPしました。
『例解新国語辞典』は社会人にもおすすめできる
『例解新国語辞典』は、私がこれまでに読んだ文書術や辞書に関する大人向けの本の中でも紹介されています。
『レポートの組み立て方』(木下是雄 ちくま学芸文庫 p223)
私の手許には何種類かの国語辞典があるが、いちばんよく使うのは『学研国語大辞典』と『例解新国語辞典』である。(中略)後者は中学生用の辞典で、ものを書くときにはその意味で参考になる。
『診断・国語辞典』(鈴木喬雄 日本評論社 p254)
最近出た『例解新国語辞典』の扱いは、「言語生活の実際」を見逃すことなく、極めて的確で行届いた説明になっている。
『1秒でも長く「頭」を使いたい 翻訳者のための超時短パソコンスキル大全』(高橋聡 KADOKAWA p468)
言葉の微妙なニュアンスや使い分けが、とても分かりやすく説明されていることがあって、…
これらがすすめるように、用例や類義語の豊富さや、詳しい解説がわかりやすい言葉で書いてあることは、社会人にも十分に有用です。
最後に、2024年版の当ブログの比較記事では、『例解新国語辞典 第十版』は総ページ数1,392なのに、同じ三省堂の1,632ページの『三省堂現代新国語辞典』や1,760ページの『三省堂国語辞典』よりも厚く重いので、次の改訂では薄く軽く作ってほしいと願っていました。
今回の最新の改訂ではフルカラーとなった分、さらに厚く重くなりましたが、中学生の学習用としての魅力がUPしたと思います。
三省堂さんのフルカラー化へのチャレンジに、感服いたしました。
以上、中学生向け国語辞典のおすすめ2選の情報でした。





(2025.2.24 情報更新)
(2025.2.16 2025年版に更新)
(2020.3.29 公開)