自分が何か書くときにある言葉を使おうとして、その言葉の使い方が正しいのか、「誤用」に不安になることがよくあります。
また、こどもが何にでも「やばい」を使っていたら、ほかにどんな言葉が「類語」にあると教えるか、いざ考えるとなかなか難しいものです。
こんな場面に役立つ、「語彙力」の強化を助けてくれる国語辞典が『明鏡国語辞典』です。
本記事では、明鏡国語辞典 第三版の特長を語彙力の強化にどう役立つかを中心に紹介します。
「誤用と正しい使い方の解説」で間違いに気づく
明鏡国語辞典で初版から定評のある最大の特長は、「誤用」に詳しいことです。
誤用しやすい日本語を多く取り上げ、注意点を教えてくれます。
今回の改訂では、第二版で分冊だった誤用索引が巻末に「利活用索引」として組み込まれ、内容もパワーアップしました。

誤用の例として、こんな説明があります。
- 「発覚」は陰謀や悪事について使う言葉で、単に明らかになる意味では使わない
- 「アニメ好きの血がうずく」は誤用(血が騒ぐとの混同」
ここで「発覚」を他の辞書と物書堂の辞書アプリで引き比べてみます。
・明鏡国語辞典 第三版



また、『岩波国語辞典 第八版』の「発覚」の語釈は、次のとおりです。
隠していたことなどが、現れ出ること。ばれること。「不正がーする」「裏切りがー」
「発覚」を使う上での注意点を書いているのは、『明鏡国語辞典』だけです。
他の国語辞典では「単に明らかになる」ことに「発覚」を使ってもOKに受け取れます。
この「発覚」のように、ある言葉の使い方が「誤用」か「変化」かの判断は難しいところでしょうが、少なくとも誤解される恐れのある言葉に注意をすることができます。
利活用索引にパラパラと目を通すだけでも、十分に楽しいです。
「品格」欄でことばが見つかる アプリ版には類語一覧も
「品格」欄(※第三版で新設!)で、ふだんづかいの言葉を言い換えたり書き換えたりする類語を用例つきで教えてくれます。
以下は「やばい」の品格欄。

「やばい」のマイナスの意味も、プラスの意味も網羅しています。
類語欄のある国語辞典は他にもありますが、多様な類語を用例つきの一覧で示してくれるのは、明鏡国語辞典だけなのではないでしょうか。
この品格欄の索引が、巻末の見開きにあります。

「いっぱいいっぱい」「うざい」「さくっと」「すごい」「でも」「テンパる」「どや顔」など、ふだんづかいの話し言葉がとりあげられていて、読むだけでおもしろいです。
さらに!
アプリ版では一部の言葉に「類語一覧」が追加されています!
物書堂版のアプリで「テンパる」を引き比べてみます。
・明鏡国語辞典




この3つは収録語数が7~8万項目の、同じクラスの小型国語辞典です。
また、同じクラスで他に人気のある『岩波国語辞典』(※『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』の著者サンキュータツオさんはこの4つを国語辞典のビック4と呼ぶ)には、「テンパる」は項目にありません。
収録項目が約25万項目以上の中型国語辞典も引いてみます。
・大辞林

・大辞泉

辞書の優劣はそれぞれに個性があり単純に言えませんが、「テンパる」の解説に限っては、明鏡国語辞典の圧勝です。
明鏡国語辞典が語彙力を増やして発信に役立つ国語辞典であることが、よくわかります。
「品格」欄の「品格」という言葉の好き嫌いは別として、シンプルに用例つきの類語集とみると、とてもおもしろく使い勝手のいい内容です。
その他の語彙力強化に役立つ特長
この2つの注目点以外にも、語彙力の強化に役立つ工夫があふれています。
「書き方」欄
「もうしこみ」と書こうとして、「申し込み」「申込み」「申込」のどれが正しいか、迷ったことがあります。
明鏡国語辞典の解説はこちら。

普通は「申し込み」、公用文では「申込み」、熟語では「申込」と、書き方がわかりやすい!
参考までに、新明解国語辞典の「もうしこみ」の解説はこちら。

普通の国語辞典はこんな感じでしょうが、これでは用例に「-書」と書いてあっても、どう書いていいかわかりません。
巻末付録「伝えるためのことば」
第二版までの巻末付録「敬語解説」に、「接続詞のまとめ」と「手紙の書き方」が加わり、第2版では本文中のコラムだった「挨拶のことば」と「季節のことば」が移動して、「伝えるためのことば」(※新設!)としてパワーアップしました。
特に社会人に実用的だと感じるのは、「挨拶のことば」の中の「おわびのことば」と「感謝のことば」です。


メールやビジネスレターでちょっとした感謝やおわびを伝えたい場面で、なかなかしっくりくる言葉が見つからないときに便利です。
画数の多い漢字の拡大表示
例えば「語彙力」の「彙」のような読めても書くのは難しい漢字を、解説部で拡大表示してくれます。

手書きが必要なときに便利で、初版から引き継がれている特長の一つです。
序文から読み解く特長
第三版の冒頭に、編者の北原保雄先生のこんな言葉があります。
新しい時代においても変わらず重要なのは、ことばの力、中でも、語彙の力である。
新しい時代に力強く生きてゆくためには、ことばを適切に使う能力を身につけることが大切だ。
それには、辞書を愛用して、語彙力を養うことである。
明鏡国語辞典は、そういうことを意識して編集し、改訂を重ねてきた。
いくつになっても、「ことばを適切に使う能力」は永遠の憧れです!
また、2002年の初版の序文にはこうあります。
大した特徴もない辞書をもう一冊増やしても世の中を混乱させるだけ
これまでには存在しない最良・最高の辞典を創る
熱い言葉です!
「最良・最高の辞典」を実現するための具体的な内容を、初版と第二版の序文の中でこう書いています。
どこまでが許容され、どこからが誤用とされる表記かなどの問題をかなり突っ込んで記述(初版)
読んで楽しい、表現と理解に役立つ(初版)
生きのいい新語、現代を映す言葉の発掘(第二版)
これらは、「誤用」を「誤用」とはっきり書いている『岩波国語辞典』、独特で実感のある語釈の『新明解国語辞典』、「新語に強い」ことを自らキャッチコピーにする『三省堂国語辞典』を意識しての内容でしょう。
明鏡国語辞典の特長まとめ
明鏡国語辞典第三版の大きな特長は、誤用と正しい使い方についての詳しい解説と、発信や表現のための類語の豊富さです。
また他の国語辞典を例にすると、『岩波国語辞典』の誤用をはっきり書くところ、『新明解国語辞典』の読む楽しさ、『三省堂国語辞典』の新語への強さを併せ持つ特長があります。
明鏡国語辞典は、先行する3つ競合辞書の特長を踏まえた上で、誰もがインターネットを通じて情報発信者になれる国際化の時代に求められている内容(誤用かどうか・生きのいい新語・発信のための類語・日本文化のコラムなど)をうまく取り入れていると感じます。
だからNo.1かというと、そういうことではなく、誤用をはっきり書く規範主義や新語の積極的な収録に否定的な考えもあるのが、国語辞典選びのおもしろいところです。
以上、明鏡国語辞典の語彙力強化に役立つ特長のまとめでした。
明鏡国語辞典の語釈の特長は、西練馬さんのこのnoteが詳しいです!

ながさわさんの新著『比べて愉しい国語辞典 ディープな読み方』にも、明鏡国語辞典の詳しくて楽しい情報が満載です!



