仕事先でビジネスマナー教育があり、進行役を務めた方からこんな発言がありました。
出ました!
「了解 目上には失礼説」です!
国語辞典好きとして、この話題は放っておけません!
そこで本記事では、ここ数年で改訂があった最新の国語辞典で了解は目上には失礼なのか確認することにします。
三省堂国語辞典 第八版
2021年12月発売の、新語や新しい用法の収録に定評のある国語辞典です。
第八版の「承知」に、こんな解説が加わりました!
「承知しました」は丁重な表現だが、「了解しました」はふつうの丁寧な表現。ただし、「了解いたしました」と言えば、じゅうぶん丁重な表現になる。
「了解」にはこうあります。
目上に失礼な語という人がいるが、以前から「了解いたしました」など、丁重な表現として使われる。
どちらにも、「了解いたしました」は丁重な表現、とはっきり明記しています。
「了解」が一概に失礼とはいえないことを、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明さんがこんなツイートでまとめていました。
「『了解いたしました』」と『いたしました』が入っていれば、敬語としては十分」との説明です。
また、後述する『明鏡国語辞典 第二版』の「ぶっきらぼう」の記述についても、こう解説してくれています。
飯間先生個人の今の語感では、「了解しました」「了解です」と言われても気にならないそうです。
その上で、気になるという人の意見も尊重したいとのこと。
例解新国語辞典 第十版
2021年2月発売の中学生向け国語辞典です。
中学生の国語の学習に役立つように、「誤解されやすいことば・新しい言いかた」を解説する「注意」欄があります。
「了解」の解説は以下の通りです。
目上の人から言われたことに対しては、「了解しました」でなく「承知しました(いたしました)」とこたえる。
こちらでは、目上の人には「了解しました」を使わない、とはっきり明記しています。
仕事先のマナー講座の担当者のように、「了解しました」を不適切とする大人が少なからずいることへの配慮でしょうか。
「了解いたしました」ならどうなのかは、特に記述がありません。
明鏡国語辞典 第三版
2020年12月発売の、誤用への詳しい解説で定評ある国語辞典です。
「了解」の説明欄に、「使い方」として次の解説があります。
依頼や申し入れを受け入れることに力点を置く場合は「承知」を、内容や経緯をきちんと理解したことに力点を置く場合は「了解」を使うのが適切。「了解しました」という言い方で敬意が足りないと感じるときは、「了解いたしました」という丁寧な言い方をする。
なるほど。
実は明鏡国語辞典の第二版(2010年発売)では、「表現」としてこんな解説になっていました。
近年目上の人の依頼・希望・命令などを承諾する意に使う向きもあるが、慣用になじまない(ぶっきらぼうで、敬意が不足)。「分かりました」「承知しました」のほか、「承りました」「かしこまりました」などを使いたい。
比べると、第三版では「了解」の言葉そのものが敬意不足かどうかの判断は避け、敬意が足りないと「感じる」なら「了解いたしました」を使おう、とマイルドな解説になっています。
読者などからいろいろ意見があったんだろうな、と推測できますね。
それでも、「了解したしました」なら敬意不足ではないとハッキリ書いているところは、明鏡国語辞典の誇りを感じるところです。
おもしろいのは、「分かりました」の評価です。
明鏡国語辞典第二版では「了解しました」はぶっきらぼうでも、「分かりました」は使いたい表現の一つです。
後で紹介する飯間先生のツイートでは、「分かりました」は「了解しました」とほぼ同等で、評価が割れています。
生徒が先生に使うような場面では、「分かりました」でまったく問題ないと私は感じます。
国語辞典自体の良し悪しとはまったく関係はないのですが、問題になりやすい言葉について調べるのなら、一般向けなら『明鏡国語辞典』『三省堂国語辞典』、中学生向けなら『例解新国語辞典』がおすすめです。
私が息子に聞かれたら…
現在中学1年生の息子がもし、「了解」って失礼なの?と聞いてきたら、こう答えるつもりです。
言葉の意味としては失礼じゃないと思っているんだけど、敬意が足りないって書いてあるマナーの本もあって、失礼だと感じる大人もいるんだよ。
先生にもいるかもね。
だから、中学生なら「了解しました」も「了解いたしました」も使わず、シンプルに「分かりました」でいいんじゃないかな。
大人になったら、「承知しました」も使っていこう。
私自身は、飯間先生のツイートを読んで「了解いたしました」を普通に使っていました。
でも、「了解」の言葉自体に敬意が足りないと思っている大人がいることを今回身近にわかりましたので、今後は使う場面にもっと慎重になろうかな、というところです。
以上、「了解」は目上の人に失礼?という話題でした。
(2021.12.21 三省堂国語辞典第八版 追記)
(2021.8.28 公開)