『三省堂現代新国語辞典』の特徴というと、新語や新しい用法の積極的な採用が話題になることが多いかと思います。
今回はこの特徴の他に、「比較」というコラムで類義語の意味や用法の違いも多く取り上げていることを、他の国語辞典と比べて評価してみます。
比較の方法は、同じようなコラムがある国語辞典で「あ」の見出しから引ける類義語の項目がいくつあるかと、その内容です。
比較するのは最新版の出版が新しい順に、『旺文社国語辞典』『学研現代新国語辞典』『現代国語例解辞典』『角川必携国語辞典』です。
三省堂現代新国語辞典 第七版
まずは『三省堂現代新国語辞典』の2023年の最新、第七版です。
「愛」「愛情」「情愛」
「あいきょう」「あいそ」
「愛らしい」「かわいい」「かわいらしい」
「あがめる」「敬う」「尊ぶ」「尊敬する」
「明かり」「灯火」「ともしび」
「あがる」「のぼる」
「悪人」「悪者」「悪漢」
「あざむく」「だます」「ごまかす」
「あそばす」「なさる」※本文中の解説
「あたえる」「やる」「上げる」「差し上げる」「献上する」「贈呈する」「進呈する」
「温まる」「ぬるむ」
「あちら」「あっち」※本文中の解説
「圧迫」「抑圧」「弾圧」
「暴く」「ばらす」
「謝る」「わびる」
「あらかじめ」「前もって」「かねて」「かねがね」
「あらためる」「改良」「改善」
「あわてる」「うろたえる」「まごつく」
「あわれ」「かわいそう」「ふびん」「気の毒」
全19項目です。
これらの項目に、このようなすっきりした解説があります。
また「あ」から始まる項目にはないのですが、次のようなオノマトペ(擬音語・擬態語)にも比較があるのが魅力です。
「がたがた」「がくがく」
「きちんと」「ちゃんと」
「きょときょと」「きょろきょろ」
「くだくだ」「くどくど」
「どんどん」「だんだん」
「ますます」「いよいよ」
「きちんと」と「ちゃんと」の違いはこちら
[きちんと]乱れがなく、整っているようす。「部屋を―かたづける」
[ちゃんと]間違いがなく、確かなようす。「寝る前に、―歯をみがきなさい」
これらは飯間浩明先生のポストが教えるように、主幹の小野正弘先生がオノマトペの専門家だからでしょう。
この他に、同音異義語の使い分けを見出しの上の「→↔←」の記号で確認できます。
「→↔←」の記号は兄貴分の『三省堂国語辞典』譲りですね。
旺文社国語辞典 第十二版
続いて『旺文社国語辞典』のこちらも2023年の最新、第十二版です。
「あがる」「のぼる」
「上げる」「やる」
「当てる」「当たる」「ぶつける」「ぶつかる」
「余る」「残る」
「ある」「いる」「おる」
全6項目です。
別に「使い分け」のコラムがありますが、こちらは単なる同音異義語の説明です。
今回の比較では『三省堂現代国語辞典』が勝るようです。
学研現代新国語辞典 改訂第六版
続いて『学研現代新国語辞典』の改訂第六版(2017年)です。
「浅はか」「薄情」
「侮る」「みくびる」
「ありあり」「まざまざ」
「ありきたり」「つきなみ」
「安易」「安直」「手軽」
全6項目です。
ほかに「使い分け」というコラムもありますが、こちらも単なる同音異義語の説明です。
今回の比較ではこちらも『三省堂現代国語辞典』の勝ちのようです。
現代国語例解辞典 第五版
次は『現代国語例解辞典』の第五版(2016年)です。
「愛嬌」「愛想」
「アイデア」「着想」「発想」
「曖昧」「あやふや」「うやむや」
「あえて」「しいて」「たって」
「あがる」「のぼる」
「諦める」「断念する」「観念する」
「アクセント」「イントネーション」「プロミネンス」
「あくどい」「どぎつい」
「あくまで」「徹底的に」
「あけすけ」「ざっくばらん」「あけっぱなし」「あけっぴろげ」
「鮮やか」「鮮明」
「味」「味わい」
「焦る」「せく」「はやる」
「与える」「やる」
「熱い」「暑い」「あたたかい」「涼しい」「寒い」「冷たい」
「集まる」「つどう」「群がる」
「当て字」「熟字訓」
「後片づけ」「後始末」
「暴く」「ばらす」
「危ない」「危うい」
「余る」「残る」
「誤り」「過ち」「間違い」
「争う」「願う」
「あらわ」「あからさま」「露骨」
「ありがたい」「かたじけない」「もったいない」
「歩く」「歩む」
「慌てる」「うろたえる」「まごつく」
全27項目で、数は『角川必携国語辞典』と並んでNo.1です。
こちらは類義語が「比較表」になっているのが特徴です。
「あわてる」の類義語の比較で、左から『現代国語例解辞典』『三省堂現最新国語辞典』『角川必携国語辞典』です。
これはこれでわかりやすいのですが、私の好みは図よりも文章での解説です。
文章の方がことばの違いをより深く味わえるように感じます。
角川必携国語辞典
最後は『角川必携国語辞典』(初版 1995年)です。
「あいまい」「あやふや」
「あがなう」「補う」「償う」
「あからさま」「あけすけ」「開けっ広げ」「ざっくばらん」
「あがる」「のぼる」
「赤んぼう」「新生児」「乳児」「幼児」「児童」
「空き」「暇」「いとま」「すき」
「あげる」「やる」「もらう」「いただく」「くれる」
「あざわらう」「せせらわらう」
「あしらう」「扱う」「使う」
「あだ」「かたき」「敵」
「あたる」「ぶつかる」
「集まる」「集う」「たかる」「群がる」
「跡形」「痕跡」「形跡」
「後戻り」「逆戻り」
「暴く」「ばらす」「すっぱぬく」
「油」「脂」「膏」※これのみ同音異義語
「あふれる」「こぼれる」
「余る」「残る」
「あやうい」「あぶない」
「謝る」「わびる」「謝罪する」「陳謝する」
「あら」「欠点」「難点」「短所」「弱点」「弱み」
「あらすじ」「要約」
「ある」「いる」
「慌てる」「うろたえる」「取り乱す」「まごつく」
「案外」「意外」「心外」「望外」
「暗闘」「紛争」「闘争」「抗争」「内紛」
「塩梅」「調子」「具合」「都合」「加減」
全27項目で、同音異義語を除くと全26項目です。
「あざわらう」と「せせらわらう」のなど、いつ読んでも学びが多い解説が盛りだくさんです。
一例として「謝る」と「わびる」の違いの内容を、『三省堂現代新国語辞典』と比べてみます。
「謝る」は、「誤る」と語源が同じ。まちがったと思う気持ちをことばにあらわすこと。「わびる」は、失敗をした自分が気落ちしているということを相手に説明すること。「謝罪する」は、罪に当たることをしたことを認めて、それを相手にことばであらわすこと。「陳謝する」は、相手に対して理由を述べて誤ること。
[誤る]軽い気持ちの場合にも使う。「ちょっと謝ればすむことだ」
[わびる]心苦しく思う気持ちをともなう。「ごぶさたを―」
こうして比較すると、『角川必携国語辞典』の充実ぶりがよくわかります。
さすがにベストセラー『日本語練習帳』の著者で編者の大野晋先生が、「つかいわけ」を「本辞典の精華」というだけありますね。
比較結果のまとめ
今回の比較の結果を順位付けすると、こうなると考えます。
角川必携国語辞典≧現代国語例解辞典>三省堂現代新国語辞典>旺文社国語辞典=学研現代新国語辞典
『三省堂現代新国語辞典』は『角川必携国語辞典』や『現代国語例解辞典』には及ばずとも、高校生の学習向けとしてライバルとなる『旺文社国語辞典』や『学研現代新国語辞典』より、類義語の比較ではずっと充実していました。
またオノマトペの比較に限れば、『三省堂現代新国語辞典』がNo.1です。
以上、『三省堂現代新国語辞典』の類義語の比較のコラムを他の国語辞典と比較した情報でした。
(2023年12月29日 情報更新)
(2019年9月19日 公開)