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岩波国語辞典の「介護」の語釈がなぜ充実しているのか考察しました

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辞書の仕事 増井元

岩波 国語辞典 第八版』は、「介護」と「看護」の違いがわかるかどうかの各種辞書の比較で、語釈の充実ぶりを見せてくれました。

この実力の理由がわかるエピソードが、『辞書の仕事 (岩波新書)』(増井元)にありますので紹介します。

『広辞苑』が「介護」ということばを載せたのは、第三版(1983年12月刊)からで、他の辞典と比べてとりわけ早く、また、一般社会での使用もまだあまり見られない時期でした。(中略)社会に即したことばを、世の中の流れを読みながら取り込んでゆくという方針が優先された結果です。(p110)

まだ「介護」ということばでは捉えられていませんでしたが、そうした現場で働く方から、『広辞苑』へ指摘がありました。「看護」でも「介助」でもない、その両者を合わせたような仕事を表すことばがいま必要になっており、今後ますますそうしたことばでしか表せない内容・概念がことばでやりとりされることになるでしょう、と。高齢化社会の入り口に立って、辞典編集部もそのような社会を読み取ることができました。 取り寄せた看護師養成のための教科書にそのことばを見付けました。(p110)

ここでは『広辞苑』についての説明ですが、日本一売れている『広辞苑』を持つゆえに、岩波書店には日本中の辞書の読者からいろいろな声が集まってくる、ということです。

目次
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広辞苑と岩波国語辞典の「介護」の語釈の変遷

ではさっそく、語釈の変遷をチェックしてみましょう。

『広辞苑』

第3版(1983年12月刊)※初掲載、第4版(1991年11月刊)
病人などを介抱し看護すること。

第5版(1998年11月刊)、第6版(2008年1月刊)、第7版(2018年1月刊)
高齢者・病人などを介抱し、日常生活を助けること。

『岩波国語辞典』

第4版(1986年10月刊)※初掲載
病人などを介抱し看護すること。

第5版(1994年11月刊)
病人や心身の不自由な人を介抱し看護すること。「寝たきり老人のー」

第6版(2000年11月刊)
身体や精神が健全でない状態にある人の行為を助ける世話。「寝たきり老人のー」▽看護より広く、財産の管理なども含めて言う。

第7版(2009年11月刊)、 第7版新版(2011年11月刊)
身体や精神が健全でない状態にある人の行為を助ける世話。「寝たきり老人のー」▽看護より広く、日常生活の援助、財産の管理なども含めて言う。

第8版(2019年11月刊)
高齢者・病人・障害者など日常生活に支障のある人を助けること。「老老―」▽看護より広く、日常生活の援助、財産の管理なども含めて言う。

考察

『広辞苑』の第3版の語釈は「看護すること」となっていて、「看護」との違いがわかりません。

そこに読者からの声が届き、第5版から「日常生活を助けること」に変わったのではないでしょうか。

同じように『岩波国語辞典』でも、第6版で語釈が変更されています。

まずはこの点が、岩波書店ゆえの強みかと思います。

そして最新版を比べて、なぜ小型の『岩波国語辞典』の方が、中型の『広辞苑』より詳しく、用例つきの語釈になっているのか。

『広辞苑』の方が詳しいイメージがありますよね。

この違いは、両者の編集方針にあるようです。

広辞苑』の編集方針には、「国語辞典であるとともに、学術専門語ならびに百科万般にわたる事項・用語を含む中辞典として編修し」、「ことばの定義を簡明に与えることを主眼とした」と書かれています。

岩波国語辞典はあとがきに、「話す、聞く、読む、書く、という現代人の言語生活に必要な知識を、その基本的なところでとらえて提供」と書かれています。

日常的に使うことばに関しては、百科事典的な性格の『広辞苑』よりも『岩波国語辞典』の方が詳しい場合があるよ、ということです。

まとめ

『岩波国語辞典』は、その序文にあるように「ことばの収録については保守的」であっても、語釈については社会に対するきめ細かな観察が反映されています。

さらに、『広辞苑』があるので読者の声が幅広く届くという岩波書店の強みが生かされています。

以上、『岩波国語辞典』の介護の語釈の変遷についての情報でした。

(2020.2.7 岩波国語辞典 第八版の情報を追加)
(2019.9.26 公開)

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