『ニュータイプの時代』の著者の山口周さんは、1970年生まれです。
団塊ジュニアのひとつ上のバブル世代ですが、経歴を見ると大卒で修士課程を修了していますので、就職時期は大卒の団塊ジュニアと同じ、氷河期世代です。
この本の最初の一文は「『20世紀的優秀さ』の終焉」。
私のように第二次ベビーブーム時代の学校教育にどっぷり浸かってきた者が、「もしかしたらこれまで正しいと思ってきたことは間違ってる?」と感じるような疑問に、はっきり「間違ってるよ!」と指摘する本です。
概要や目次はアマゾンの商品紹介に詳しくあるので譲ります。
ここでは、私が特に目が覚めた内容を紹介します。
クソ仕事
「クソ仕事」ということばに、違和感を持ちませんか?
「仕事は神聖なもので、どんな仕事にも価値があり、一所懸命やらなければならない」と、私はこれまで考えてきました。
現実には、「上司からこの仕事やるように言われたけど、上司の上司への単なるパフォーマンスだよな…」とか、「これをやって何か社会に役立つ?役員のフトコロが暖まるだけじゃない?」と感じることがあっても、です。
「仕事は神聖」という価値観への最近の決定的な疑問は、森友問題で公文書の改ざんを苦に自死した赤木俊夫さんの事件です。
報道が事実だとすると、赤木さんの「公文書の改ざんの仕事」って何の意味があるの? 不正をした誰かを守るため?? 同時の上司がみんな出世してるってどういうこと??? と考えずにはいられません。
「クソ仕事」ということばは、ロンドンの社会人類学教授デヴィッド・グレーバーの著書『Bullshit Jobs : A Theory(クソ仕事:その理論)』からきています。
山口さんの定義では「意味のない仕事」です。
モノが過剰にあって、日常生活で目立った不満・不便・不安がない世界には、「意味のない仕事」が蔓延していると山口さんは言います。
「クソ仕事」ということばに抵抗はあっても、いまの世界には「意味のない仕事」がたくさんあると言われると、実感として納得できます。
生きることに意味があるかは別の問題として、現代は「どんな仕事にも価値はある」は危険な考えで、「クソ仕事=意味のない仕事」もあると気をつけないと、自分を守れないと考えるようになりました。
そういえば、別の記事に「札幌の爆発事故によせて 「おかげさまで生きる」からいくつかことばを紹介します」を書いています。
アパマンショップの店長が店内でスプレー缶120本を噴射して爆発した事件です。
スプレー缶をムダに120本も噴射するって、どう考えても「クソ仕事」ですね。
わがまま
「わがまま」は私の中では、悪徳の代表選手です。
「わがままを言うな!」と子どものころから大人は言いましたし、奥様は息子によく言っています。
まず山口さんは、ヘルマン・ヘッセの「わがままこそ最高の美徳」というエッセーを紹介します。
第一印象は???です。
読むと、人は人間によってつくられた法律に服従するか、自分自身の中にある法律に服従するかが問題で、「わがまま」は後者であり美徳だ、とあります。
証拠は、ソクラテスもイエス・キリストも当時の社会のルール・規範に対抗し、自分の内面的な道徳・価値観に従った「わがまま者」だったと。
確かに、組織のルールに抗えず、自分の倫理観に「わがまま」にならなかったための悲劇は、森友問題の赤木俊夫さんや電通の過労死事件の山崎まつりさんのように、いくつでもあげることができそうです。
自分の倫理観への「わがまま」は美徳だと、考えを改めます。
努力
「どんなことでも1万時間努力すればプロになれる」、いわゆる「1万時間の法則」があります。
私が最初にこの法則を知った本は、『中谷巌の「プロになるならこれをやれ!」』で、なるほどと思いました。
ほかにも、「じっと努力していれば、きっと誰かが見ていてくれる、助けてくれる」と思ってきました。
山口さんによると、「1万時間の法則」でよく言われる「天才モーツァルトも努力していた」から「努力すればモーツァルトのような天才になれる」は、完全な間違いです。
「努力なしにはモーツァルトのような天才にはなれない」が正しく、「努力すれば夢は叶う」という価値観には危険性があります。
努力しているのに成果が出ないときは、「向いていない」という事実に向き合い、「次の仕事を探す」ことを山口さんは勧めます。
例として、最初に夢見ていた整形外科医の仕事に就くも向いていなくてやめ、紆余曲折の末にノーベル賞を受賞した山中伸弥教授をあげています。
努力至上主義の否定は、藤田一照さんの著書『ブッダが教える愉快な生き方』からも学びました。
闇雲に努力してもだめなことを、しっかり認識しておきます。
逃げる
「苦しくても逃げてはいけない」は、一見正論ですね。
私もそう思ってきました。
確かに例えばいま、新型コロナウイルスへの対応で苦労されている方々がみな苦しいと逃げてしまったら、社会は成り立ちません。
山口さんによると、「人生の豊かさは『逃げる』ことの巧拙さに左右される」。
そして「自分が何をやりたいか、何が得意か」というキャリア論はほどんど無意味で、仕事はやってみないとわからず、ヤバそうだと思ったらさっさと逃げよ、とあります。
社会人生活を約25年した実感から、私は山口さんの考えに同意します。
いま苦労されている方は、自分自身が壊れる前には助けを求めてほしい、そして落ち着いたら、将来のことをじっくり考えてほしいと願います。
VUCA化する社会
『ニュータイプの時代』は、いまの世界のメガトレンドの一つに「社会のVUCA化」をあげます。
VUCAとは、Volatile(不安定)、Uncertain(不確実)、Complex(複雑)、Ambiguous(曖昧)の4つの形容詞の頭文字をあわせたもので、アメリカ陸軍が現在の世界情勢を説明するために用いだした用語とのこと。
そしてVUCA化が進行すると、これまで「良い」と考えてきた価値に大きな影響を与えると言います。
上であげた「クソ仕事」「わがまま」「努力」「逃げる」は、日本の優等生タイプが持っている価値観の中でVUCA化で変化すべき、筆頭の候補だと思います。
ではどうするか
この本ではわかりやすく「ニュータイプ」「オールドタイプ」と分けていますが、山口さん自身がツイッターにこう書いています
どの世代にも、最初から「ニュータイプ」の人はいるでしょう。私は持っていた「オールドタイプ」の価値観が限界に達して、昨年末に会社員の生活が終わったようです。
では、どうしたらいいか。『ニュータイプの時代』には答えはありません。
こんなツイートもあります。
山口さんの別の本の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』には、「絵画を見る」「哲学に親しむ」「文学を読む」「詩を読む」ことで「美意識」を鍛えよ、とあります。
その上で、「『私は何のために生きているのか?』という哲学的な問い」(「ニュータイプの時代」p99)を立て、生きる意味・働く意味を考え続ける中に、これからの人生を豊かにする糸口がありそうです。
以上、山口周さんの著書『ニュータイプの時代』の感想でした。