Number(ナンバー)976号「完全保存版 イチロー戦記。」のイチローさんのインタビュー記事に、才能についてのぐっとくることばがありました。
以下に紹介します。
ー自分の一番の才能は何だと思っていますか。
「平常心でプレーすることなどできない、ということを受け入れていることだと思います。平常心でいられない自分を受け入れて、そこに立ち続けること。たくさんの人がそこから逃げようとするのを見てきましたし、その気持もわかります。でも、それでは前に進めないのです。常にリラックスした状態の自分でなければ結果が出せないということでは、続けることはできません。だから普通の自分じゃない、つまり平常心でいられなくても逃げずに立ち向かう自分がいる、それは重要なポイントだと思います。どんなときでも心に芽生えてしまった重圧を背負ってそこに立つこと……これこそが僕の才能なのかもしれません」
ここにある、「平常心でいられない自分を受け入れて、そこに立ち続ける」才能は、まさにマズローの言う「自己実現的人間」の特性であり、森田療法の「あるがまま」と「恐怖突入」ではないですか!
マズローの「自己実現的人間」
「欲求五段階説」が有名な心理学者マズローの著書、『人間性の心理学』(産能大学出版部)の11章「自己実現的人間」に、こんな言葉があります。
彼らは、人間性の脆さや罪深さや弱さ、邪悪さを、あたかも自然を自然のままに無条件に受け入れるのと同じ精神で受け入れることができるのだと言わなければならない。(p232)
子どもが偏りや批判のない無邪気な目で世界を眺め、事実をありのままに観察し、いたずらに論じたり、別のものであればと願ったりすることがないように、自己実現的人間も自分自身や他の人々の人間性を、そのまま受け止めるのである。(p232)
『人間性の心理学』 のこの部分の見出しは、「受容(自己、他者、自然)」です。
イチローさんの言う「平常心でいられない自分を受け入れる」は、まさに「自己の受容」です。
森田療法の「あるがまま」と「恐怖突入」
森田療法は、森田正馬先生が創始した日本発の精神療法です。
この森田療法のキーワードに、「あるがまま」があります。
岩井寛先生の著書『森田療法』(講談社現代新書)から。
一人前の人間として、人生に対する方向性を見出して行動するときに、希望と同時に生じてくる不安や葛藤を“そのままに認め、受け入れる”ことを「あるがまま」という(p25)
「生の欲望」を正しく維持しようとするなら、逃避したいという一方の欲望(症状)をそのままにしておき、もう一方のよりよき実現をしたいという欲望に従った行動をとっていくことであろう。つまりこれが「あるがまま」である。(p148)
ここにある「逃避したいという一方の欲望(症状)をそのままにしておく」は、イチローさんの言う 「平常心でいられない自分を受け入れる」そのものでは!
またイチローさんはこの記事の中で、WBCの日の丸の重圧を「今まで経験したことのない恐怖」と言っています。
森田療法にも、「恐怖突入」という言葉があります。
同じく岩井先生の『森田療法』から。
恐怖という一種の不安の極限状態を「あるがまま」にしつつ、自分が最も困難とする状況の中に「突入」していかなければならない(p110)
思い出すのは、2009年のWBC(ワールドベースボールクラシック)決勝の韓国戦、延長10回表のチャンスでのイチローさんの打席です。
この試合の前までの打率は.211と不調。
ここでヒットを打てず、日本が負ければ、猛烈なバッシングを受けかねません。
まさにこの場面で、イチローさんは「恐怖突入」をしたのではないでしょうか。
イチローさんは、マズローを読んだり、森田療法を学んだりしているでしょうか。
それとも、メンタルトレーナーが学んでいるのか、森田正馬先生が慧眼なのか…。
以上、イチローさんとNumberから学んだ、マズローの心理学と森田療法の教えの紹介でした。